東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2268号 判決 1981年2月25日
控訴人 兜合名会社
右代表者代表社員 有賀久
控訴人 有賀久
右両名訴訟代理人弁護士 町田健次
同 西川美数
同 渡辺一雄
同 金子満造
同 吉田信孝
控訴人 千葉四造
被控訴人 ルイズ・ヘルムこと ルイゼ・マリー・アンナ・ヘルム
右訴訟代理人弁護士 浜勝之
同 森文治
主文
一 原判決中控訴人有賀が控訴会社の代表社員でないことを確認した部分及び控訴会社に各抹消登記手続を命じた部分を取り消す。
二 被控訴人の請求中右取消にかかる部分につき訴を却下する。
三 控訴人有賀久のその余の控訴を棄却する。
四 原判決中被控訴人の控訴人千葉に対する抵当権不存在確認請求に関する部分を取り消す。
五 被控訴人の右請求につき訴を却下する。
六 控訴人千葉のその余の控訴を棄却する。
七 訴訟費用は第一、二審を通じ、被控訴人に生じた分の三分の一を控訴人有賀の、同じく三分の一を控訴人千葉の各負担とし、その余は各自の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
との判決
二 被控訴人
控訴棄却の判決
第二主張並びに証拠関係
次のとおり附加、訂正するほかは、原判決の事実摘示と同一(但し、原判決四枚目表三行目に「権原」とあるのを「権限」と、同一一枚目表五行目、同七行目、同一〇行目、その裏二行目及び同八行目に、それぞれ「畑」とあるのを、いずれも「雑種地」と改める。)であるから、これを引用する。
一 原判決四枚目表末行冒頭の「(六)」の次に「(1)」を加え、その裏二行目から三行目にかけての全文を削り、その代りに次を加える。
「(2) 控訴人会社は、昭和五〇年九月一〇日の経過により定款所定の存立時期の満了によって解散し、被控訴人は同控訴人に対し、その残余財産分配請求権を取得したのであるが、被控訴人は、前記のとおり控訴人会社の唯一人の社員であり、しかも控訴人会社には原判決の別紙物件目録記載の不動産以外に資産はないのであるから、被控訴人の残余財産分配請求権を保全するためには、控訴人会社に代位して右不動産につき経由された本件の抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求める必要がある。
(3) よって、被控訴人は、右残余財産分配請求権に基づいて控訴人会社に代位して控訴人千葉四雄に対し、同控訴人が前記の抵当権を有しないことの確認と控訴人会社に対する本件の抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求める。
(4) (当審において追加された予備的請求の原因)右主張が容れられないとすれば、合名会社の内部関係については、定款又は商法に別段の定めがないときは組合に関する民法の規定が準用される結果、控訴人会社の財産は社員の共有となる(商法六八条、民法六六八条)ところ、被控訴人は、控訴人会社の社員であり原判決の別紙物件目録記載の不動産の共有者として、自己の名において右不動産に設定された不法な抵当権の排除を求める権利がある。よって、この権利に基づき右不動産につき経由された本件の抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求める。」
二 《証拠関係省略》
理由
一 まず、被控訴人が控訴会社の社員であること並びに控訴人有賀が控訴会社の社員及び代表社員ではないことの確認を求める各訴の適否並びにその当否について検討する。
1 被控訴人は、控訴人有賀が控訴会社の代表社員ではないことの確認を求めるというのであるが、右の代表権の有無は、被控訴人と控訴会社及び控訴人有賀との間において、控訴人有賀が控訴会社の社員ではないことが確認されさえすれば自動的に解決するのであるから、後述のように右の点についての確認請求が認容される本件においては、被控訴人のこの確認請求は独立の訴の利益を欠くものであり、不適法として却下を免れない。
2 控訴会社が被控訴人主張の日時に、同主張の目的をもって設立されたこと、当時の本店所在地、資本金額、社員及び各持分が被控訴人主張のとおりであったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すれば、控訴人有賀及び慶野剛次及び池谷惇の三名は、控訴会社の持分の譲渡を受けた事実がないのに相謀って、控訴人有賀は控訴会社の社員エルシー・ヘルムの持分を、慶野剛次は同ダブリュー・ヘルムの持分を、池谷惇は同様社員である被控訴人の持分をそれぞれ譲受けたとする内容虚偽の文書(甲第一〇号証の三、なお、控訴会社の社員三名のうち被控訴人以外の二名が甲第一〇号証の三の作成日付である昭和五二年五月二五日以前にすでに死亡していたことは、後記認定のとおりである。)及び慶野剛次が控訴会社の代表社員に就任した旨の虚偽の文書を作成し、これらの文書を添付書類として原判決の登記目録4の登記を申請すると同時に同目録1ないし3の各登記を申請し、これにつぐ目録5以下の各登記は、いずれも右の不実の登記を前提として経由されたにすぎない事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
そうして控訴人有賀は他に被控訴人がその出資持分を喪失したことの及び自らが控訴会社の持分権を取得し、その社員となったことの事実上及び法律上の原因についてなんら主張立証するところがない。それ故被控訴人は現在においても控訴会社の出資総額五万五〇〇〇円のうちすくなくとも一〇〇円の持分を有する社員であり、控訴人有賀は控訴会社の社員でないといわざるをえず、しかも控訴人有賀は右を争っているのであるから、被控訴人の右の各確認請求はいずれも訴の利益があり、かつ正当であるというべきである。もっとも被控訴人の請求中控訴人有賀が控訴会社の社員でないことの確認を求める部分はいわゆる消極的確認の請求であり、かかる請求は特定の権利の帰属者が明らかであり、その積極的確認が可能である場合には訴の利益を欠くとする考え方が通常であるが、《証拠省略》を総合すれば、ダブリュー・ヘルムとエルシー・ヘルムは、その時期は明らかではないが、遅くとも昭和五二年五月二五日以前には死亡した事実が認められるのであって、もし、その死亡の時期が《証拠省略》によって認められる控訴会社の定款所定の存立時期が満了した昭和五〇年九月一一日以前であったとすれば、前記両名の死亡による法定退社によって控訴会社の社員は被控訴人一人となった結果、法定の解散事由の発生によって当然解散し、被控訴人がその清算人となったものであるが(商法八五条三号、九四条四号、一二一条、七〇条)、控訴会社についての持分は、右両名の退社によって、すべて被控訴人に帰属し、退社したダブリュー・ヘルム及びエルシー・ヘルムの相続人(相続関係は、必ずしも明らかではないが、前記二名と被控訴人は姉弟妹の関係にあり、ダブリュー・ヘルムの子ウイリー・ヘルムがニュージーランドにおいて生存していることは、《証拠省略》によって明らかである。)は控訴会社に対し、退社による持分の払戻請求権を取得し、被控訴人は、解散による残余財産分配請求権を取得したというべきであるし、また、ダブリュー・ヘルム又はエルシー・ヘルムのいずれか一方又はその双方が控訴会社の前記存立時期満了による法定解散(同法九四条一号)後に死亡したとすれば、その死亡した社員の相続人もしくはそのうちの一人は、控訴会社の社員たる地位を承継するのである(同法一四四条)から、右の相続人らと被控訴人は、控訴会社の法定清算人になると同時にその持分の割合に従った残余財産分配請求権を取得したというべきであって、そのいずれかが明らかでない本件においては、被控訴人は控訴人有賀が有すると主張する控訴会社に対する出資持分が何人に帰属するかを積極的に主張することは困難であるが、少くとも控訴人有賀には帰属していないのであり、かかる場合においてはなお消極的確認の利益を認めてよいと解される。
二 次に被控訴人の控訴会社に対する原判決の別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続を求める訴の適否について検討する。
被控訴人と第一審被告大橋及び控訴人有賀間における本件各確認の請求につき被控訴人が勝訴の確定判決を得たならば、これにより被控訴人は、控訴会社の清算人であることを証明し、控訴会社の代表者として商業登記法一〇九条一項二号の定めるところに従い原判決の別紙登記目録記載の各登記のうち登記上現に効力を有するものとされている登記の抹消をみずから申請すれば足りるのであって、殊更に訴をもって右各登記の抹消登記手続を求める必要もなければ、その利益もないというほかない。それ故右請求にかかる訴は不適法として却下されるべきである。
三 最後に被控訴人の控訴人千葉に対する請求について検討する。
1 請求の原因五項の事実は当事者間に争いがなく、一項において認定した事実関係と《証拠省略》によれば、右の抵当権設定仮登記の原因をなす昭和五二年六月二九日付の抵当権設定契約は控訴会社の社員でもなく、従ってまた控訴会社の名において右契約を締結する権限もない慶野剛次と控訴人千葉との間において締結されたものであることが認められるのであって、右契約が無効であり、この契約を原因として経由された前記抵当権設定仮登記が実体的権利関係に符合しない無効の登記であることは明らかである。
2 そして、二項において認定した事実関係によれば、被控訴人は控訴会社の清算人の地位にあるものであるが、同時に控訴会社に対して解散による残余財産分配請求権を有するものであることが明らかであり、しかも《証拠省略》によれば、控訴会社には原判決の別紙物件目録記載の不動産以外に資産がないことを認めるに充分であるにかかわらず、被控訴人は、控訴会社の清算人としての登記が経由されていない結果、控訴会社の名において、前記の登記抹消請求権その他の権利を行使するに困難な状態にあり(商法第一二条参照)、その他控訴会社において右の権利を行使したことにつき何ら主張立証のない本件にあっては、被控訴人は、控訴会社に対する債権者として同会社に代位して抵当権設定仮登記の抹消登記手続を求める権利があるというべきである。
なお被控訴人は右のほか代位請求として抵当権不存在の確認を求めているが、民法第四二三条にいう「債務者に属する権利を行う」とは、その結果債権者債務者間の法律関係になんらかの変動を生ずべき法律行為をなすことを意味するもので、訴訟上の確認請求であって実体上権利変動を生ずる可能性のまったくない本件のようなそれは同条の権利行使に当らないから、右請求にかかる訴は不適法といわねばならない。
四 以上のとおりであるに拘らず、被控訴人の請求を全部認容した原判決は一部不当であるから、その部分を取り消したうえこれを前記のとおり変更することとし、民訴法九六条、八九条、九二条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)